序論
インプラントの技術革新の結果、より改良が進んだインプラントシステムおよびインプラント表面が市場に参入してきている。これに従い、インプラントに関する長期予後データの重要性が増している。
サンドブラスト・ラージグリッド・酸エッチング加工(SLA)サーフェイスは1997年に導入され、それ以降、ランダム化比較試験を始めとする多くの臨床試験が実施された。
これらの試験のうち多くが5年または5年以上の長期予後データを報告しているが、SLAサーフェイスインプラントについて10年間追跡したデータは発表されていない。また、市販されている他の表面技術を用いたインプラント(競合品)に関するデータはほとんどない。本研究では、SLAサーフェイスインプラントに2つの荷重プロトコールを用いた場合の長期予後の治療成績について比較検討することを目的とした。
材料と方法
・ ランダム化比較試験(RCT)
・ 上顎無歯顎患者24人(男性8人、女性16人)
・ 上部構造はフルアーチの固定性補綴物
・ 試験群(早期荷重、95本)対照群(遅延荷重、47本)
・ X線評価 補綴物装着時、装着6ヶ月時、1、2、3、5、10年時に実施
結果
・ 5年経過時までに7本のインプラントがロスト
・ その後10年経過時までにロストしたインプラントはなし
・ 重度侵襲性歯周炎があった1名が5〜10年のフォローアップ時にドロップアウト
・ すべてのインプラント生存率:95.1%(10年経過時)
・ 補綴物の生存率:96%(10年経過時)
・ 5年経過時と10年経過時の骨収集データを比較した場合、試験群、対照群のいずれの値も有意差はなかった
・ 5年経過時と10年経過時の辺縁骨変化の平均は、試験群で−0.8±1.2と−1.1
±0.9mm、対照群で−0.3±1.0と−0.7±1.3mm
・ 10年経過時の骨吸収に2群間で有意差はなかった
・ 患者満足度が高かった
結論
・ 5年経過時から10年経過時までの間にロストしたインプラントはなかった
・ 5年経過時から10年経過時までの間に統計学的に有意な骨吸収は生じなかった
・ 補綴物の生存率が高かった(96%)
・ 補綴物に関連した合併症は主にレジンに関連していた
・ 臨床におけるインプラントシステムの高い信頼性が証明された
・ 10年経過時にインプラント周囲炎の徴候は認められなかった
・ 患者の満足度は高かった
歯科医師にとってのメリットとは
今回のデータは、症例報告レベルではなく、疫学的なレベルでのSLAの優位性を示しています。これは、臨床現場においてはそれほどの差はないと考えられるかもしれません。しかしトータルな疫学的見地から見ると、極端に言えば失敗の割合を半減することも可能だということです。またインプラント治療は、長期にわたって患者様とコミュニケーションをとる必要があります。データが示す長期安定性は、患者様との信頼構築の面でも大きなメリットと言えるでしょう。
SLAがもたらす患者様にとってのメリットとは
まず1つは、確かな科学的エビデンスによって長期的な安心を得られること、もう1つはQOLの向上が挙げられます。SLAインプラントは、他のラフサーフェイスに比べてオッセオインテグレーションの獲得に優れ、骨質の悪い部位でより成功率が高いこと、またインプラント周囲炎への耐久性が高いことが分かっています。それらの優位性によって治癒期間が短縮し、従来3~4ヶ月かかっていた治癒期間が短期間で済むようになりました。これは言うまでもなく、患者様のQOL向上に貢献します。
図1)5年経過時から10年経過時の間の辺縁骨変化の平均の差